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第122回定例会

第122回

香港中文大学 北村 隆則教授(元駐香港総領事・元駐ギリシャ大使)

開催日

10月15日(木) 19:00 ~ 21:30

開催場所

香港和僑会オフィス http://www.wa-kyo.org/contact

参加者数

27名

第122回「外交よもやま話」

香港中文大学の北村隆則教授(元駐香港総領事・元駐ギリシャ大使)をお招きし、「外交よもやま話」というテーマで、講演していただきました。

まずは、ブッシュ大統領と江沢民国家主席の訪日に関する首脳外交の裏話です。

90年代初頭、日本は湾岸戦争であまり貢献できず、弱点をさらけ出していました。そんな中、92年にブッシュ大統領は訪日。日米関係を親密に見せる必要がありました。この折、天皇と皇太子、ブッシュ大統領とアマコス大使でテニスのダブルス試合が行われ、ロブ作戦を取った天皇ペアが6対3で勝利。ブッシュ大統領はくやしいのでもう一セットを要求して行いましたが、また天皇ペアの勝利となりました。そしてその後の宮中晩餐会で、ブッシュ大統領が意識不明で倒れました。この報道の影響は大きく、政治家の健康は命とりなので、ブッシュ氏は結局再選できず、クリントン氏に敗れてしまいました。クリントン氏は98年に訪中しましたが、日本に寄らず、中国と共同で日本を批判し、貿易摩擦の影響もあり、日本との関係は最悪となりました。もしブッシュ大統領が晩餐会で意識不明にならず、大統領選に勝っていれば、その後の展開は違っていたかもしれない。

一方、江沢民主席は、98年7月に訪日予定で、事前の準備では歴史に焦点は当てず、未来志向の共同声明を用意していました。ところが、揚子江大洪水のため、訪日が延期され、韓国の金大中訪日が先になってしまいました。韓国との関係では、村山談話で用いた「痛切な反省と心からのおわび」を日本が表明し、韓国が日本の戦後の平和路線を評価するとのラインで未来志向を打ち出せ、いい訪問となりました。ところが、後になった中国が、日本側に同様のお詫びを求めましたが、いろいろな事情で話がまとまらず、中国側は日本が歴史に後ろ向きとのキャンペーンを張り、江沢民主席の訪日はまったく後味の悪いものになりました。あの洪水がなければ、当初の準備の通り、うまく言っていたのではないかと。

次は香港総領事時代、香港での外交活動です。総領事として、日本のメッセージを発信することが大事なので、また日中関係が悪い時だったので、どこへでも講演に出かけました。マカオ大学で講演した時に、日本はあれだけ中国に災難を生じながら、反省していない、日本の責任で日中関係が悪い、という趣旨の質問がストレートに出され、聴衆からも大きな拍手が沸き起こりました。こういう時、言い訳や守りに回るのは禁物で、誤ったメッセージになるので、こう答えました。拍手で皆さんが今の質問を共有されていることを認識しました。さて、歴史に係わる課題がいくつか存在し、その一つ一つを良く議論し、全体として客観的に捉えることが必要と感じています、また日中関係を全般的に進める中で、よりよき相互理解が生まれることも期待している旨、話したら、同様に大きな拍手がありました。先方の明確なメッセージにこちらからもメッセージで答えることが必要と思います。

別の機会に、中国婦人からこういう話がありました。複数の日本人といるときに、中国人が日本軍に、ひどい目に遭ったという話をしたら、みんな黙ってしまった。それを見て、私は日本人は過去のことを無視したがっていると思った。黙ってしまった理由はそれぞれあるとしても、「無視したい」というメッセージになっていることは理解する必要がある。反発でも共鳴でも、思うままに向き合うことが重要と思います。そこから、相互理解も生まれると思います。

歴史問題はいくつかの側面から見る必要があります。まず、日韓、日中の間に横たわる認識のギャップがあります。なぜ、韓国は執拗に日韓併合条約が違法で無効であるとこだわるか。また、日中が国交を回復したのは戦後27年経ってからですが、日本人の戦争意識は、もっぱら原爆、空襲など被害者としての認識で、加害者としての認識が育ちませんでした。

また、歴史問題は、内政の裏返しの面があり、たとえば80年代の日中関係は官民通じた経済協力などで非常に良かった。しかし、90年代に中国の経済発展と共に始まった愛国教育は結果的に反日感情を惹起した。韓国では、98年の金大中大統領の訪日であれだけ盛り上がったにもかかわらず、次の大統領は植民地時代の清算といって、昔日本に協力した人の財産を没収するなどの法律をつくり、日本たたきが出てきた。日本についても、過去をどう評価するかというとき保守政権は制約が伴う。

教科書、靖国神社、南京事件などそれぞれ個別の性格、背景があるので一つ一つきちんと理解することが必要ですが、本来はそういう過程を経て、理解が生まれ、歩み寄って将来に向かっていくべきですが、現状は反対です。

ところで、中国では良くドイツと日本が比較して語られます。ドイツはきちんと対応しているのに、日本はそうでないというコンテクストで。この点に関して、ドイツは国家政策として計画的にユダヤ人虐殺を行いました。ドイツと日本を同一の尺度で論じることは適当でないと感じています。また、欧州では戦後、ドイツとフランスなど隣国とNATOという同じ同盟の枠内で、相互和解を進める共通の基盤が存在したことはドイツにとって幸運だったと思います。日本の場合、残念ながらこういう共通の基盤がなかった。もちろん、ドイツの対応は参考にすべきです。

歴史問題は、日本が一方的に謝り、中国が一方的に叩くというのでは、もちません。共通の基盤を作り、前に向かって歩むべきです。

最後に、ギリシャ勤務の経験から、日本のリスクについてお話します。ギリシャの財政赤字は大幅に改善し、累積債務は減少の方向です。また、EUという大きな枠にあり、今後債務の減免など助けてもらえます。一方、日本の累積債務は既に200%強となり、引き続き拡大しています。増税で解決するとなると25-30%までの消費税増税か、それに見合う財政カットが必要ですが、政治的に実現は難しい。今後とも債務は増大していきます。今後ではどうなるかということについての危機意識が薄いと感じています。残念ながら、ハイパーインフレが起こり、債務を反故にする、という荒治療しかないのではないか。こういうリスクを認識する必要があると思います。

日本の抱えるリスクとして、中国リスク、大規模災害リスクなどありますが、インフレリスクについても認識すべきです。

講演を聴いて:

日本でテニス試合をしなければ、ブッシュ大統領は倒れず、再選したかもしれない。中国で洪水がなければ、江沢民主席の訪日が延期されず、当時の日中関係がうまくいったかもしれないという、もしという前提の考え方はおもしろく、そうして外交をとらえていくと更に考えが深まっていくのでしょう。またとにかく向き合って相互理解を目指していくという外交の基本にあらためて納得しました。確かに、日本軍の蛮行を口にされると言いようがないと思ってきましたが、歴史を自分なりに理解して、反応できるようになりたいものです。また今の日本政府には、軍事でなく、外交を磨いて日本の存在を高めていって欲しいです。日中と日韓は最悪とも言える関係ですが、せめて1人1人が意識して行動するのが必要でしょう。身近でこうした外交話を聴けるのも海外ならではと思いました。

(文責:香港和僑会、執筆:香港和僑会会員 木村孝子さん)

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